読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ruru on the roof

大好きな絵と絵本と、日々のこと・・

一束の花だけを持って

バスが来るまで、あと10分あった。眩しかったから時刻表の陰に入って読みかけの本を広げる。風が少し強かった。

ふ、と人影がして顔を向けると、お花を抱えたおばあさんがいた。

「すみません。バスの時間を見てほしいんやけど」

「はい。いまは2時だから…」

「いいや、いまから墓参りにいって帰りのバスやし、1時間後くらいかね」

「それなら、3時12分のか、25分のはどうかしら」

「せやね、ありがとさん」

にこ、とした皺のあいだに影ができて、美しいなと思った。

「いいお天気で良かったですね」

と言うと、

「お墓の中ってどんなやろな。」

と言う。唐突で、どきっとした。

「うーん…」

おばあさんは、カッカッと笑った。歯がずらっと白くて、ピカッと光っていた。

「なんや最近考えてまうわ。さ、いってこよ。あんたも気いつけて」

「ありがとうございます、あの、お気をつけて」

おばあさんは少し足を引きずりながら、花束を下げて山の方に向かっていった。私はどこか白昼夢をみたような気持ちで、音のないバスに乗り込み、駅に運ばれていった。

 

春に引っ越すことになり、いまは片付けや整理で忙しい。京都に来てから絵を本格的に描きはじめたから、増えた道具や本がなかなかの量でびっくりしている。自分といういれものは変わらないのに、少しずつ質量が増えて違ういれものを求めた様な感じだな、と思いながら箱詰めをする。この家に来て4年半で、こんなにも荷物が増えたんだなと思う。年の離れた主人は、最近荷物の量が減ってきている気がする。この調子でいったらいずれは何も無くなるんじゃないかしら。いまだ増え続けている私も、いつかある時期を境に落ち着いて自分自身の荷物が整理されて減って行くのかなあ。。

f:id:rumir:20170227173013j:plain

 

不思議な人たち

注文頂いていた絵を届けて、次のお仕事へ向かう。堀川御池から、ぐるっと四条河原町まで時間があったので歩くことにした。昨日は雪が降ったけれど今日の夕暮れは少しだけ春の気配がして背中にちょっと汗をかいた。いつもと違う道は少しドキドキした。

横断歩道の信号待ちで、ふと緑色が目の端に入った。

(?)

右隣の男性が右手にパセリ、左手に携帯電話を持っていた。

(パセリ?)

しかも、花束を持つように軽い感じで持っている。(まさか、パセリを持って待ち合わせ・・)携帯電話を操作しながらパセリも軽く揺れていた。(コックさんかな。なんだか変だな。お使いかな。。)青信号になって渡る。

渡ったら、裸足の男の人がいた。

(!?)

靴下を履いてないだけではなくて、靴も履いていない。上半身は黒いジャケットを着て普通の格好をしている。(どういうことかしら)彼も携帯電話に夢中だった。(寒くないのかな。誰かが靴を持ってきてくれる、とか・・)それにしても裸足!!苦行だ。なのに、道行く人は気づいていないようで私は不思議でならない。

裸足の彼が通り過ぎると、視界の端でつまづいた人がいた。

小柄なおじさまが慌てて体勢を整えて歩き出したところだった。(何か、変だ・・・)よく見てみると、すぐにわかった。

たたんで持っている傘が、非常に長い。

引きずりそうな傘の柄が胸のあたりまである。あんなに長い傘だったら転んでも仕方ない。パラソルなんじゃないかしら。。重たくないのかしら。。

(今日は変った人をよく見るな)

いろいろ面白かったので、主人にさっそく報告する。

「君もそんな人ばかり夢中で見てたら、はたから見たら同じように見えるよ。こけないように気をつけなさい」

と返信が来た。

 

まだ約束の時間まで早かったので、東急ハンズに入った。ちょっと前に、お母様が素敵な石けんを使っていた。布用の洗濯石けんで、それで洗うと、どんな汚れもみるみる白くなるという。ここにあると言っていたから、買ってみよう。エスカレーターで3階に上がる。

(えーと。なんていう石けんだったかしら)

ピタ、と足が止まった。名前がどうしても思い出せない。

(メロディ、じゃなくて、そらいろ、じゃなくて・・)

ぐるぐる探していると、感じのいいお店の人が「何かお探しですか」と声をかけて下さった。

「ありがとうございます、あの、えーと・・石けんを探しているのですが」

「何用の石けんでしょうか」

「何でも洗えるそうなのだけど、名前が思い出せなくて」

「はあ。」

「たしか、男の子が青空で口ぶえを吹いているような石けんだったと思うのですが・・」

というと、お店の人が吹き出した。

「すてきですね」

「すみません・・なければ無いでいいのですが」

「探してみましょう」

私はもう、申し訳なくて恥ずかしくて帰りたくなってしまった。けれど、1分後、親切な店員さんが笑いながら正しい石けんを持ってきてくれた。

石けんの名前は「ウタマロ」だった。

私もじゅうぶん変な人だった。あーあ・・

f:id:rumir:20140122165300j:plain

 夕方から降り出した雪がうっすら辺りを包んでいました。

「月がピカピカよ」

主人を呼ぶ。

「雪、明日もあるかな」

並んで小さな台所の窓から夜空を見上げる。白い雲のようで思わず写真を撮るけれど、きれいに写らない。主人が貸してみて、と夜景用に設定してくれた。

「わぁ、すごい」

なんだろう、とカメラを横から覗いてみたら、まるで深い海のなかのよう。

f:id:rumir:20170114224841j:plain

「フラッシュで星が写った」

と主人が感心している。

「星じゃなくて、雪が写ったんじゃないかしら」

「・・そうか・・なんだ」

もう降ってないように見えるんだけど、、とつぶやく主人が面白かった。

 

音がぜんぜんしない、静かな夜でした。目に見えないくらいの細かな雪が気持ちよさそうで、少し歩きたくなりました。渋る主人についてきてもらい、ちょっと雪の上に足跡をつけて満足して帰りました。

 

そして今日。

起きたら大雪になっていました。私たちのお家は京都市でも北にあるのだけど、吹雪いて大変な事になっていました。

f:id:rumir:20170115100122j:plain

本当は朝お仕事があったのだけど、急遽お休みになってしまいました。その後だんだんと晴れて、青空の下の比叡山は気持ち良くすっきりとしていました。

f:id:rumir:20170115141510j:plain

でも、そのあとはまた激しく吹雪いたり太陽が出たりで泣き笑いのようなお天気になりました。心配してメールをくれた母によると京都では40年ぶりの大雪だそう。お家から出られないので、絵を描いたり、お豆を煮たりスープを作ったりして過ごしました。

 

雪をかぶって長靴を履いた郵便屋さんが届けてくれた本を申し訳なく受け取りました。(よりによって今日じゃなくていいのに。。)雪もちょっとなら珍しくて嬉しいけれど、こんなに激しいのはやっぱりいらないな。。

目的達成

あっという間にぎりぎりの時間になっていた。(あと、5分のんびりしよう。それから、ゆっくり支度しよう)と思って布団にくるまったら、すぐ5分たってしまった。(・・あと、5分。。)それもみるみる過ぎた。もう羽毛布団と私は一体化して、引き剥がそうにも無理になった。(かたつむりが、殻から出るときはこんな感じかな。。)外に出るのが心底つらく感じたけど時間はどんどん迫っている。私は悲しい気持ちで支度をはじめた。

(今日は目覚ましが鳴るより一時間もはやく起きたのに、おかしいな…)

しかも、昨晩作ってもらって世にも美味しかった牛すじカレーをまた食べてからいこう、と決めていたのにそんな余裕はもうどこにもなかった。

牛すじカレー・・)

と思いながらとぼとぼ、自転車に乗って駅へ向かう。あの時、しつこく布団にもぐらなければ食べられたのにな、、と後悔がよぎる。
 
川沿いの道では秋の白い光が眩しかった。ついこのあいだまで、ヒマワリがずらっと並んでこちらを向いていたと思ったのに、それがいつのまにか可愛らしいコスモスに変わっていて風まであの明るい赤紫に染まるようだった。それから、刈られたあとの田んぼにはカラスが遊んでいた。
 


駅に着くまでにどうにもお腹が空いてきた。出掛けにお芋2本と、梨ひとつ、ミルクティとドーナツ2つをちゃんと食べたばかりなのに、、思い込みが激しいから、予定のカレーを食べてないと、他のものもあまり食べてない気持ちになるのだと思う。それで、駅でチキン南蛮としゃけの手作りおむすびを頂くことにした。電車を待ちながら幸せな気持ちで頬張った。

にこにこ食べていたら、おじいさんの駅員さんに

「おいしそうやんか。良かったな」

と言われて、恥ずかしかった。(駅員さんもお腹空いてたのかな)とちょっと心配になった。満足したけど、やっぱりカレーが良かったなと思った。

どうも私はこうしたい、とか、欲しい、と思ったことにはしつこい。

それはそれはしつこい。

用事を終えて帰って、お腹はちょっとふくれていたけれど、すぐにカレーを温めてちゃんと食べた。カレーはちょっと口では言えないくらい、美味しかった。私は意地になって食べて大いに満足した。けれど案の定気持ち悪くなって、やめておけばよかった。。といつも通り思いながら「お腹を休めなくちゃ」とか言い訳をして、こそこそ毛布を広げました。。

f:id:rumir:20161017170313j:plain

バスを待つあいだに

(ひゃー、、重たいな。。)

お仕事帰り、八百屋さんに寄ったら思ったより大荷物になってしまって、よたよたバス停についた時にはくたくたでした。

(バス、10分後ね)

時間を確認して、荷物を置こうとしたら、バス停の足元に腰かけていた7才くらいの子供がふと顔をあげて、

「なぁ、絵本てなんなん?」

と車の流れを見ていたおじいさんらしき人に声をかけました。

(ふぅん…なんて答えるかな。。)

置こうとした荷物を持ち直して耳を澄ませていると、

「絵本は、絵と文章で組合わさっている書籍や。」

と、きっぱりとしぶい声でおっしゃいました。

「ふーん。。子供のもんなん?」

「いや。子供、大人は関係ない。」

「でも子供向けって書いてあるで。ほら」

「子供向けでも大人が読んだらあかんことはない」

(なるほど、、)

「ふーん」

格好いいおじいさんだな、と思って何となくその声を反芻していました。

 

車やバスやタクシーはいくつも通りすぎるけど、なかなか私のバスが来ません。男の子は絵本を読んで、おじいさんは背中を向けて腕組をして、足をしっかりと開いて立っていました。バス、まだかな。。と思っていたら、

「ようさんバスあるで。ぜんぶ乗りたいな」

と男の子が言いました。そう思うんだ。なんだか可愛いな、、と思っていたら、おじいさんはしぶい声でまた一言。

「ようさんあっても、自分が乗るバスは一つだけや」

「せやな」

(!!)

思わずおじいさんの言葉を噛み締めていたら、

「さ、行こか」

と、なんときびすを返してスタスタ、私が来た道を歩いていってしまいました!子供も絵本を持ってふつうに後を追います。

(乗らない!・・という選択肢もあるのか!!)

おかしくて思わず吹き出してしまいました。

二人はあっという間に人ごみにまぎれて見えなくなり、私はそのあとすぐに来たバスに乗り込みました。何度も初めから思い返しては誰かに言いたくなって、ひとりで笑ってしまいました。

f:id:rumir:20160930101936j:plain

秋の恵み

仕事から帰ってきたら、仲良しの従姉から梨が届いていました。さっそくお礼を言うと美味しいからおすそわけと軽やかな声が返ってきました。

その次の日「お芋を送りましたー!」と、仲良しの60代の友人からメールが届きました。驚いてお礼の返信をすると「何のお芋かは、お楽しみ!」とルンルンのメールが届いて、思わず電車の中で笑ってしまいました。

それから次の日には「お好きそうで!くるみとか栗とか、そういう」と、素敵なおばさまから上等な栗を頂きました。ええ、大好き!でも栗は特に主人が好きだから、喜ぶだろうなと嬉しく思いました。

 

それで今日お仕事の帰り道、朝からお肉の番組を見てうっとりしていた主人が可愛らしかったから、ちょっと美味しいお肉を買って帰ろう・・と思ったら、近くの花屋さんの軒先にコスモスが長い首を風に揺らしていて、傍らには可愛らしい小さな花々やハーブがあったので思わず立ち止まってうっとり見ていました。

しばらくすると「お姉さん、良かったらこれ、持ってってよ。そのハーブとまとめて安くするで」と、おじいさんが少し広がった大きいクランベリーの鉢植えを出してきました。

「可愛い!いいんですか?」

「最近、若い方が花屋に来るの珍しいし嬉しいからな」

おじいさんが優しくおっしゃるのが嬉しくて、またまたお礼を言って両手に抱えて帰りました。

 

なのに。

今度は三条に奈良の柿を売りに来た若いご夫婦に会いました。山のような柿の前を気にもとめずに皆が通りすぎていくので、ちょっと悲しい気になっていたら、目が合ってしまいました。

「柿、いかがですか?」

話をしてみたら京都に初めて売りに来たのだそうで「京都は難しいですね。。」とおっしゃるので胸がいっぱいになって、つい「1かご下さい」と買ってしまいました。(主人になんて言おう。。八百屋さんでも始めるの、て言うかな。)と思ったくらいの量だったけれどその上に沢山沢山サービスして下さって山盛り、リュックがパンパンになりました。

 

帰ったら花を植え替えて、梨をくれた従姉に柿とお芋を、お芋をくれた友人に梨と柿を送ろう。と思って、よたよた玄関を開けたら、母からの大きな小包。なにかしらと開けたら、弟の奥さんのお家から取れたてお米のおすそわけでした。

「秋の味覚が山もりだわ!!」

と、いつも通り本を読んでいる主人に一通りの由来を話して、さっそく「もし二人で柿屋さんとして生きていくとしたらどうするか」についての戦略会議をじっくりと行いました。

f:id:rumir:20160924145415j:plain

雨の香り

お仕事とご用事で、数日東京にいました。台風と一緒の移動になるかしらとドキドキしていたけれど、電車が止まるとか、上から下までびちょびちょになるとか、悲しい目には合わずに済みました。でも、ほとんどずっと雨降りでした。

f:id:rumir:20160922092705j:plain

京都の雨は少し土の香りがするけれど、東京の雨は何だか冴え冴えとするようで、あたりの景色の輪郭がくっきりする気がするの。みんな傘を目深に刺して早足で歩く。でも、あまのじゃくな私はついゆっくりになってしまう。(だから肩や足元が濡れるのだけど。。)絵や道具が濡れないように気をつけながら移動するのは少し大変でした。

赤坂見附での打ち合わせが終わって外に出たら、雨粒が大きくなっていて、(あらら・・)と思いながら駅に足早に向かいました。そのとき、おばあさんが工事現場の方に道を聞いているけれど、なんだか困っている様子だったので気になって、

「大丈夫ですか?」

と声をかけました。近くに来るまで気がつかなかったけれど、おばあさんは海外の方のようでした。あなた、英語はしゃべれる?というので、ちょっとなら、と答えると、だいぶ濡れてしまった地図を示して、ここに帰りたいの、とおっしゃりました。

「ここの場所、わかりますか?」

と工事現場のおじさんに聞くと、ちらりと一瞥して、

「英語、分からないんでね」

と、向こうのビルを見ながら答えました。こまった。。私は、英語はちょっとわかっても、地図が全然わかりませんでした。(実は、このすぐ近くの学校に20年近く通っていたのですが、あまりに方向音痴で全くわからなかったのです)せめて地図の向きを理解しようと思って、

「すみません、どちらが北かわかりますか?」

と聞くと、

「分からないね」

と言います。工事現場の方は正直に言って、とっても親切ではありませんでした。傘もささないでお仕事中、不機嫌でギリギリなのにこれ以上構わないで、といった感じでした。でも雨は激しくなってきた上に人通りが減って、この方を逃したら道を知る人を探すのは大変そうでした。傍でおばあさんが不安そうな顔なので、きっと大丈夫だからちょっと待っててねと伝えて、さらにおじさんに質問しました。

「この通りは何通りですか?」

青山通りだよ。知らないで歩いてるの?」

おじさんは驚いた顔でこちらを見ました。

「そうなの。それで、こっちの通りは?」

「〇〇通り(忘れてしまいました)」

「ありがとう!」

じゃあこっちだ、ともうびしょ濡れになってしまった地図を片手におばあさんと向かいます。おばあさんはとても不安そうでした。たぶん大丈夫よ、と伝えるとおばあさんは突然、ありがとうと言って、「私、一人ぼっちでとっても辛かったの」と泣き出しました。

私は咄嗟に、さっきの工事現場のおじさんや、他の日本の人が冷たかったのかなと思ってとても申し訳なく思いました。ところがおばあさんの話を聞くと、なんと彼女はカナダから息子と息子の奥さまと旅行に来たのだけどパスポートを落としてしまって、航空券もお財布も無くしてしまって、再発行に5日間かかるあいだ、一人ぼっちでとても寂しい思いをしたそうなのです。

「なんてかわいそうに!!大変でしたね。」

思わずぎゅっとすると、おばあさんはえんえん泣くのでとても心配になりました。ホテルはすぐにわかりました。次のお仕事の時間が迫っていたからどうしよう、と思ったけれど日本にあまりに悲しい思い出ばかりが残ったら辛すぎると思って、「お茶でもいかが?」とお聞きしたけれど「どうもありがとう、でも大丈夫。」と笑顔を見せてくれました。それで、お名前を交換してハグをして別れました。

本当は「元気出してね」と言いたかったけれど、英語で何て言ったらいいのかわからなくて、「あなたが笑顔だと嬉しいな」ととても下手くそな英語で伝えました。帰って、英語がペラペラの母に尋ねたら幾つかフレーズを教えてくれたけれど、「きっと伝わったわよ」と言ってくれたので、ちょっとホッとしました。

 

f:id:rumir:20160922155726j:plain

二日後、京都に着いたらまだ降っていました。そのままお仕事を終えて夜、雨は激しくなっていました。連日ぎゅうぎゅうの予定で大荷物だったのでこまったな。。と思っていたら友人が車で拾って帰ってくれることになりました。待っているあいだ、京都の雨の香りを胸いっぱい吸い込みました。すぐに来てくれた友人に心からお礼を言い、車に乗り込みました。おばあさんカナダに帰れたかな。あのあとちゃんと楽しいことがあって、無事に帰れているといいな。。

f:id:rumir:20160922205350j:plain