ruru on the roof

大好きな絵と絵本と、日々のこと・・

壁の向こう

鍵がない!!
と気づいたのは、くたくたになり家に着いた瞬間のことでした。玄関前に、トイレットペーパーや牛乳やパンを置いてリュックの中を探す。

(えー!!まさか!)

一瞬で背中に汗をかき、ドキドキしながらひとつひとつ荷物を取りだし、必死で記憶をたどる。鍵をいれた記憶はない。。どこにもない。
今日の朝は早かった。だけど、ぐずぐずして主人を起こした上に朝ご飯を作ってもらった上に、甘えてお見送りまでしてもらった。それで確かに、今日の私は鍵をさわらなかった。

(あらー。。)

どこか、開いてないかしら。手の届く窓を全部あたる。でも、本当は無駄とわかっていた。私だけなら半分くらいの確率で開いていることもあるけど、何せ主人が戸締まりをしたら、まず開いているなんてことは、ない。
いろいろしてみようとしたけど、窓やドアを壊したりもできないし、どうにもならない。
仕方ないから、少しお花を植え替えたりした。でも日もすぐに暮れてきて、だんだん手元が見えなくなってきた。。
主人に早く帰ってきてねと3通もメールしたけど、仕事中だし返事がまだない。汗もひいて、ちょっと涙がでてきた。

 
山のきわが闇に溶けて夜が広がっていくのを見ていたら海みたいだと思った。遠く近くに灯りがともる。2時間したら主人が帰ってくるはず。帰りを待つ犬ってこんな気持ちかしら。。耳元にくる蚊を避けながら玄関の灯りの下をうろうろ歩く。

ふと、駅と逆方向に散策するならひょっとして今日かしらと思ったけど(引っ越してから、まだ駅との家の往復しかしていないの)道が全然分からないし、真っ暗でどうにも恐ろしい。20分くらい自転車をこいで駅に出たら夜遅くまで開いているカフェがあるけど、ここ数日、用事が続き、今日も朝から晩まで頑張ったからくたくただった。私は荷物のうえに座り込んだ。壁の向こうにはあの幸せの世界が広がってるんだと思うと絶望的な気持ちになった

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山の向こうで、花火の音が聞こえる。春から住んでいるこの家は、目の前が田んぼで自然いっぱい山も川もいっぱいのところ。見たことのない生き物がたくさん住んでいる。そんな、何かの生き物たちのなかに、剥き身でいるのはなんとも心細い。
小さいころ、大人になったらもっと色々なことが出来るようになったり恐いことなんて無いんじゃないかと思っていたけれど、なんだかあまり変わらない。鍵がなければお家に入れないし、綺麗な石が落ちていたら拾いたくなるし、転んで擦りむいたりするし、家電が壊れたら誰か直してくれないかと思うし、やらなくちゃいけないと思うとやりたくないし、やっぱり家族の声を聞いたらうんと安心する。

大きな世界のなかの小さな自分を感じながら、母と、主人のお母様に窮状を訴えて甘やかしてもらい、携帯電話で話しながら星空を見上げていたら、坂の向こうから主人が急ぎ足で帰ってくるのがみえてきた。きっと、また呆れただろうな。。。

なんということでしょう!

 1ヶ月半ぶりにテレビとパソコンがつきました。昨年の秋、比叡山の麓の築60年のすきま風だらけの小さなお家と出会って、3月末にお引っ越しすることになりました。もともとの家から近くて、アトリエがあってピアノが弾けて、お庭があるおうち。いつか見つかるといいな、、と思っていたけれど、そう出来そうなお家を例によって偶然見つけて、とんとん拍子に決まったの。特筆すべきは契約まで主人が家も図面も見なかったこと。 「何だかこうなる、と分かってるときはそういうものだよ」君が気に入ったならいいじゃない、とコーヒーを飲み本を広げる主人に目がまるくなりました。たぶん反対されるから、何ていって説得しよう、とずっと企んでいた私は拍子抜けしたくらい。でも、ちゃんと契約のときや、ややこしいときには来てくれました。頼りになるでしょ!
 
むかしから、「ビフォーアフター」の番組が大好きで「なんということでしょう!」と番組の決めゼリフを言いながら見ていました。折り込みのチラシの間取り図を見ては毎回飽きずに何時間でもうっとりとしていた私を主人が笑っていたけれど、実際にそうなりました。
 
 工事初日、ご挨拶に行ったらさっそく床が無かったのに驚きました。リフォームの方をはじめ、大工さんや左官やさんや、ガスやさん水道やさん…電気やさん以外全員が白髪のおじいさま達で、休憩中柔らかな関西弁が飛び交うのが気持ちよかったです。とにかく物を扱う手つきが美味しそうなの!!私は職人さんのお仕事を間近で見るのが楽しくて、時間をみつけては見にいき主人に報告しました。
 2月になってから床や壁を作ったり、電気やガスの工事など自分たちでできないところをやって頂き、ひと月ほどで形になっていました。そんな頼もしい職人さんのお仕事が終わり、あとは自分たちでする作業だけが残りました。。
 
それからのリアルビフォーアフターは凄まじいものでした。自分たちで床や壁の色を全て塗り、中には天井まで塗った部屋もありました。前のお部屋を3月末日で解約する手続きをしてしまっていたので、このままでは住むところが無くなる。。と泣きそうになりながら、雪降る3月はくたくたになるまで毎日朝早くから夜遅くまでがんばりました。そして、実際に31日の朝になんとか引越し終わりました。でも新しいお家には荷物が山積み。私たちはしばらく本の隙間で眠りました。
 
この時点で、なまけものの私は一生ぶん働いた気でいたのに、やる事はまだまだ終わっていません。なんとか新しいお家に住みはじめて、山のような片付けに追われ、にも関わらず早々に家族が見にきてくれたり、毛虫が椿の木に200匹も出て退治したり、お仕事もあるし、毎日走り回っているうちにとうとうダウンして胃腸炎で1週間寝込みました。そんな色々なことがありましたが、ふと気がついたら外は初夏の日差しに変わっていました。
 
ところでこのお家は、比叡山の影になるからかテレビが映りませんでした。業者さんに意を決してお願いしに行ったのだけど、春は工事が混んでいてテレビもパソコンも見られるようになるのは5月半ばになると言われました。私たちはもちろんスマートフォンも持っていないので、ますます世の中の流れがわからなくなってしまいました。

でも先週くらいにほぼ片付いて、お庭に花を植え、昨日にはパソコンもついて大量のメールに少しずつ返信したり、絵も描きはじめました。ようやく、長くこんぐらがっていた日常に風が吹きはじめました。
この台所の壁も主人と二人で色を重ねて塗ったのよ。本当は、まだ幾つか終わっていないことがあるんだけど・・まだお風呂の壁も塗っていないし・・・

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一束の花だけを持って

バスが来るまで、あと10分あった。眩しかったから時刻表の陰に入って読みかけの本を広げる。風が少し強かった。

ふ、と人影がして顔を向けると、お花を抱えたおばあさんがいた。

「すみません。バスの時間を見てほしいんやけど」

「はい。いまは2時だから…」

「いいや、いまから墓参りにいって帰りのバスやし、1時間後くらいかね」

「それなら、3時12分のか、25分のはどうかしら」

「せやね、ありがとさん」

にこ、とした皺のあいだに影ができて、美しいなと思った。

「いいお天気で良かったですね」

と言うと、

「お墓の中ってどんなやろな。」

と言う。唐突で、どきっとした。

「うーん…」

おばあさんは、カッカッと笑った。歯がずらっと白くて、ピカッと光っていた。

「なんや最近考えてまうわ。さ、いってこよ。あんたも気いつけて」

「ありがとうございます、あの、お気をつけて」

おばあさんは少し足を引きずりながら、花束を下げて山の方に向かっていった。私はどこか白昼夢をみたような気持ちで、音のないバスに乗り込み、駅に運ばれていった。

 

春に引っ越すことになり、いまは片付けや整理で忙しい。京都に来てから絵を本格的に描きはじめたから、増えた道具や本がなかなかの量でびっくりしている。自分といういれものは変わらないのに、少しずつ質量が増えて違ういれものを求めた様な感じだな、と思いながら箱詰めをする。この家に来て4年半で、こんなにも荷物が増えたんだなと思う。年の離れた主人は、最近荷物の量が減ってきている気がする。この調子でいったらいずれは何も無くなるんじゃないかしら。いまだ増え続けている私も、いつかある時期を境に落ち着いて自分自身の荷物が整理されて減って行くのかなあ。。

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不思議な人たち

注文頂いていた絵を届けて、次のお仕事へ向かう。堀川御池から、ぐるっと四条河原町まで時間があったので歩くことにした。昨日は雪が降ったけれど今日の夕暮れは少しだけ春の気配がして背中にちょっと汗をかいた。いつもと違う道は少しドキドキした。

横断歩道の信号待ちで、ふと緑色が目の端に入った。

(?)

右隣の男性が右手にパセリ、左手に携帯電話を持っていた。

(パセリ?)

しかも、花束を持つように軽い感じで持っている。(まさか、パセリを持って待ち合わせ・・)携帯電話を操作しながらパセリも軽く揺れていた。(コックさんかな。なんだか変だな。お使いかな。。)青信号になって渡る。

渡ったら、裸足の男の人がいた。

(!?)

靴下を履いてないだけではなくて、靴も履いていない。上半身は黒いジャケットを着て普通の格好をしている。(どういうことかしら)彼も携帯電話に夢中だった。(寒くないのかな。誰かが靴を持ってきてくれる、とか・・)それにしても裸足!!苦行だ。なのに、道行く人は気づいていないようで私は不思議でならない。

裸足の彼が通り過ぎると、視界の端でつまづいた人がいた。

小柄なおじさまが慌てて体勢を整えて歩き出したところだった。(何か、変だ・・・)よく見てみると、すぐにわかった。

たたんで持っている傘が、非常に長い。

引きずりそうな傘の柄が胸のあたりまである。あんなに長い傘だったら転んでも仕方ない。パラソルなんじゃないかしら。。重たくないのかしら。。

(今日は変った人をよく見るな)

いろいろ面白かったので、主人にさっそく報告する。

「君もそんな人ばかり夢中で見てたら、はたから見たら同じように見えるよ。こけないように気をつけなさい」

と返信が来た。

 

まだ約束の時間まで早かったので、東急ハンズに入った。ちょっと前に、お母様が素敵な石けんを使っていた。布用の洗濯石けんで、それで洗うと、どんな汚れもみるみる白くなるという。ここにあると言っていたから、買ってみよう。エスカレーターで3階に上がる。

(えーと。なんていう石けんだったかしら)

ピタ、と足が止まった。名前がどうしても思い出せない。

(メロディ、じゃなくて、そらいろ、じゃなくて・・)

ぐるぐる探していると、感じのいいお店の人が「何かお探しですか」と声をかけて下さった。

「ありがとうございます、あの、えーと・・石けんを探しているのですが」

「何用の石けんでしょうか」

「何でも洗えるそうなのだけど、名前が思い出せなくて」

「はあ。」

「たしか、男の子が青空で口ぶえを吹いているような石けんだったと思うのですが・・」

というと、お店の人が吹き出した。

「すてきですね」

「すみません・・なければ無いでいいのですが」

「探してみましょう」

私はもう、申し訳なくて恥ずかしくて帰りたくなってしまった。けれど、1分後、親切な店員さんが笑いながら正しい石けんを持ってきてくれた。

石けんの名前は「ウタマロ」だった。

私もじゅうぶん変な人だった。あーあ・・

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 夕方から降り出した雪がうっすら辺りを包んでいました。

「月がピカピカよ」

主人を呼ぶ。

「雪、明日もあるかな」

並んで小さな台所の窓から夜空を見上げる。白い雲のようで思わず写真を撮るけれど、きれいに写らない。主人が貸してみて、と夜景用に設定してくれた。

「わぁ、すごい」

なんだろう、とカメラを横から覗いてみたら、まるで深い海のなかのよう。

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「フラッシュで星が写った」

と主人が感心している。

「星じゃなくて、雪が写ったんじゃないかしら」

「・・そうか・・なんだ」

もう降ってないように見えるんだけど、、とつぶやく主人が面白かった。

 

音がぜんぜんしない、静かな夜でした。目に見えないくらいの細かな雪が気持ちよさそうで、少し歩きたくなりました。渋る主人についてきてもらい、ちょっと雪の上に足跡をつけて満足して帰りました。

 

そして今日。

起きたら大雪になっていました。私たちのお家は京都市でも北にあるのだけど、吹雪いて大変な事になっていました。

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本当は朝お仕事があったのだけど、急遽お休みになってしまいました。その後だんだんと晴れて、青空の下の比叡山は気持ち良くすっきりとしていました。

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でも、そのあとはまた激しく吹雪いたり太陽が出たりで泣き笑いのようなお天気になりました。心配してメールをくれた母によると京都では40年ぶりの大雪だそう。お家から出られないので、絵を描いたり、お豆を煮たりスープを作ったりして過ごしました。

 

雪をかぶって長靴を履いた郵便屋さんが届けてくれた本を申し訳なく受け取りました。(よりによって今日じゃなくていいのに。。)雪もちょっとなら珍しくて嬉しいけれど、こんなに激しいのはやっぱりいらないな。。

目的達成

あっという間にぎりぎりの時間になっていた。(あと、5分のんびりしよう。それから、ゆっくり支度しよう)と思って布団にくるまったら、すぐ5分たってしまった。(・・あと、5分。。)それもみるみる過ぎた。もう羽毛布団と私は一体化して、引き剥がそうにも無理になった。(かたつむりが、殻から出るときはこんな感じかな。。)外に出るのが心底つらく感じたけど時間はどんどん迫っている。私は悲しい気持ちで支度をはじめた。

(今日は目覚ましが鳴るより一時間もはやく起きたのに、おかしいな…)

しかも、昨晩作ってもらって世にも美味しかった牛すじカレーをまた食べてからいこう、と決めていたのにそんな余裕はもうどこにもなかった。

牛すじカレー・・)

と思いながらとぼとぼ、自転車に乗って駅へ向かう。あの時、しつこく布団にもぐらなければ食べられたのにな、、と後悔がよぎる。
 
川沿いの道では秋の白い光が眩しかった。ついこのあいだまで、ヒマワリがずらっと並んでこちらを向いていたと思ったのに、それがいつのまにか可愛らしいコスモスに変わっていて風まであの明るい赤紫に染まるようだった。それから、刈られたあとの田んぼにはカラスが遊んでいた。
 


駅に着くまでにどうにもお腹が空いてきた。出掛けにお芋2本と、梨ひとつ、ミルクティとドーナツ2つをちゃんと食べたばかりなのに、、思い込みが激しいから、予定のカレーを食べてないと、他のものもあまり食べてない気持ちになるのだと思う。それで、駅でチキン南蛮としゃけの手作りおむすびを頂くことにした。電車を待ちながら幸せな気持ちで頬張った。

にこにこ食べていたら、おじいさんの駅員さんに

「おいしそうやんか。良かったな」

と言われて、恥ずかしかった。(駅員さんもお腹空いてたのかな)とちょっと心配になった。満足したけど、やっぱりカレーが良かったなと思った。

どうも私はこうしたい、とか、欲しい、と思ったことにはしつこい。

それはそれはしつこい。

用事を終えて帰って、お腹はちょっとふくれていたけれど、すぐにカレーを温めてちゃんと食べた。カレーはちょっと口では言えないくらい、美味しかった。私は意地になって食べて大いに満足した。けれど案の定気持ち悪くなって、やめておけばよかった。。といつも通り思いながら「お腹を休めなくちゃ」とか言い訳をして、こそこそ毛布を広げました。。

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バスを待つあいだに

(ひゃー、、重たいな。。)

お仕事帰り、八百屋さんに寄ったら思ったより大荷物になってしまって、よたよたバス停についた時にはくたくたでした。

(バス、10分後ね)

時間を確認して、荷物を置こうとしたら、バス停の足元に腰かけていた7才くらいの子供がふと顔をあげて、

「なぁ、絵本てなんなん?」

と車の流れを見ていたおじいさんらしき人に声をかけました。

(ふぅん…なんて答えるかな。。)

置こうとした荷物を持ち直して耳を澄ませていると、

「絵本は、絵と文章で組合わさっている書籍や。」

と、きっぱりとしぶい声でおっしゃいました。

「ふーん。。子供のもんなん?」

「いや。子供、大人は関係ない。」

「でも子供向けって書いてあるで。ほら」

「子供向けでも大人が読んだらあかんことはない」

(なるほど、、)

「ふーん」

格好いいおじいさんだな、と思って何となくその声を反芻していました。

 

車やバスやタクシーはいくつも通りすぎるけど、なかなか私のバスが来ません。男の子は絵本を読んで、おじいさんは背中を向けて腕組をして、足をしっかりと開いて立っていました。バス、まだかな。。と思っていたら、

「ようさんバスあるで。ぜんぶ乗りたいな」

と男の子が言いました。そう思うんだ。なんだか可愛いな、、と思っていたら、おじいさんはしぶい声でまた一言。

「ようさんあっても、自分が乗るバスは一つだけや」

「せやな」

(!!)

思わずおじいさんの言葉を噛み締めていたら、

「さ、行こか」

と、なんときびすを返してスタスタ、私が来た道を歩いていってしまいました!子供も絵本を持ってふつうに後を追います。

(乗らない!・・という選択肢もあるのか!!)

おかしくて思わず吹き出してしまいました。

二人はあっという間に人ごみにまぎれて見えなくなり、私はそのあとすぐに来たバスに乗り込みました。何度も初めから思い返しては誰かに言いたくなって、ひとりで笑ってしまいました。

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