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ruru on the roof

大好きな絵と絵本と、日々のこと・・

高い所

嬉しいことに、仕事をいくつか終えても、まだ明るい午後だった。旅に出て遊んでしまったので、やることが溜まっていたの。でも今回はいい旅だったから、帰ってきて元気いっぱい。そうだ、あれもやろう、こうしてみようとアイディアが後から後から湧き出て、ぎゅいーん、とアクセルを踏んだような状態になっていた。電話が鳴った。母からだった。台湾のお土産が届いたみたい!小さいことを一通りお喋りして切って、かばんにしまって立ち上がったら、そこに空に登る塔があった。

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わあ、と思わず笑顔になった。登りたくなった。

一段ずつにぎって、足をかけて上がって行くところを想像した。半分くらい登ったら周りの家の屋根が見えるかな、と思った。やっぱり有る程度の高さを登るには、命づながなくちゃ危ないかしら。景色を思い浮かべたら、急に手足が冷たくなって、くらくらした。よく考えたらあんまり高いところは得意じゃない。もちろん主人も。

 

一度だけ、主人とふたりで観覧車に乗った事がある。私たちはそういうことが大の苦手で、今思えば若気の至り、と思うのだけど、二人ともそういうものなんだろうと思って東京ドームシティでジェットコースターと観覧車に乗ってみた。今もあるか分からないけれど、ここは乗りたいのりものの前でチケットを購入する、というシステムで分かりやすかったし、気軽な感じがした。まずはあれかな、とジェットコースターに並んだ。

もう何年も前のことなのに、はっきりと覚えている。私たちは最初、とてもご機嫌だった。でも列が進んで、今から自分たちが乗る予定のレールや、物凄い速度で通り抜ける機械を見て、乗客の悲鳴(歓声かしら・・)を聞いていたら手足が冷たくなって、ふたりともだんだん無言になってきた。隣を見たら主人も青ざめていた。。とうとう私たちが乗り込む順番がきて、ふたりで一番後ろの座席に並んで座った。係の人が締めてくれたベルトを主人はきつく締め直した。(もちろん私の分も)

カタカタカタカタ・・・

機械が昇って行く。

「これはいけない」

私が思っていると、

「ちゃんと足を踏ん張って」

「うん」

「手すりを握ってて」

「わかった」

怖くてたまらなくなってきた。

「うわ」

ふっ、と無重力になった気がした。高速で、機械が下に降りた。右に左に揺られて、私はぎゅっと目をつむって、じっとこの時間が過ぎるのを耐えていた。速度が緩まったとき、こっそり主人をみたら主人もじっと目をつむっていて、まるで苦行に耐えるお坊さんのようになっていた。私たちの前の人達は、こともあろうに、両手を上げて喜びの声をあげている。また波がきて、私も気配を消してお坊さんの仲間入りをした。

長いコースがようやく終わって、さっきいたところに戻ってきたけれど、くらくらしていたし、あんまり力を入れすぎて、手と足がゆるゆるになってしまっていた。早くここから立ち去りたいのにゆっくりしか動けない。主人とよろよろ、何とか外のベンチに座って、ショックから戻るのに長いことかかった。

 

「帰ろう」

私が言った。でも主人は、

「もう二度と来ないだろうから、あれに乗ってからにしようよ。」

あれならゆっくりだし、と観覧車を指差した。それは大きなおもちゃの時計みたいだった。そうね、とのんびり足を向けてチケットを買った。

かたん、と動き出してこれは、と思った。

足元が見える。風で、ぐらん、ぐらんと大きく揺れる。向かい合った主人の表情が固い。

「動かないでね」

「・・うん」

まるで爆弾を抱えたような気持ちになった。誰も乗ってない観覧車は随分高くまで上がって、レゴのブロックのようなビル街は綺麗だったけれど、自分たちだけが高いところに吊るされているようでひどく心もとなかった。ここで止まったらどうしよう、と思った。眉間にきゅ、っと力が入った。地上までの時間は、たいへん長かった。

 

「たぶん、こういうことに僕たちは向いていないんだ」

「うん」

帰り道、主人が言った。そうだ。その通りだな、と思った。そうして言葉に出したら、さっきまでの怖いところにいた自分が遠ざかって、地面に足がついてどこにでも行ける自分が幸せでいっぱいになった。もちろんそれが、私たちにとって最初で最後の遊園地になった。

 

子供のころ、屋根に昇って降りられなくなったことが何度かある。何度かは家の屋根に弟と登った。それから祖父母の家で、そして小学校のプールの屋根。あれは木をつたって上がった。いつもと違う目線が楽しくてはしゃいでいたら、校内放送で降りなさいと叱られた。一体どうして私だと分かったのか、今でも不思議だけど、そのときも降りられなくなって梯子をかけて降ろしてもらった。

だから今日も、登ってみたい。青空の中に近づいていくなんて、素晴らしいかもしれない。それに、ぐんぐん登って、もしかして落ちるかもしれないけれどそれはそれで気持ちいいかもしれない、なんてスリルを味わってみたりもする。でも、一通りそんなことを考えて、救急車まで発動するところや主人にお迎えにきてもらって叱られるところまで思い浮かべたらくたびれてしまったので、今日はちゃんと帰ることにした。