読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ruru on the roof

大好きな絵と絵本と、日々のこと・・

3回目

お出かけ

それは、歯医者さんに意を決して行ったけれど、拍子抜けするくらいにすぐに終わってしまった(しかも、全然痛く無かった)から思いついたことだった。お日さまはまだ明るく、先週ほど暑くはなく、気持ちいい風が吹いていた。私は自転車のペダルをぐんぐん踏みながら、このまま帰るのは何だかもったいない、と感じていた。 今日の用事はもう、何もなかった。嬉しくなって、速度を上げた。一度だけ通ったことがある緑の谷をのぞきにいこう。そう思って、ハンドルをぎゅっとにぎった。

 

鞄の中には、お財布とハンカチと電話と、小さなノートと鉛筆が入っている。ほかは何にもないのでとっても軽い。いつもは本やら仕事道具やらが入っているので大きくて重たいバッグだけど、今日は歯医者さんに行って、帰りに花屋さんに寄るだけ、と身軽に出掛けた。それがまた嬉しい。少し登り坂になって、足が重たくなってきた。でもこの道は車も少なくて、私のほかにはだれもいない。トンネルをぬけた。

ここからは下り坂になる。風が急に通り抜けて、背中に汗をかいていたことに気付く。濃い緑、淡い緑、枯葉とまじる土の気配、遠くに見える甘やかな青い空は、コバルトブルーを水で薄めて、筆で何度も重ねたような色だった。

大きなカーブをまがったとき、ふっと目の端に何かが見えた。思わず自転車をとめる。

「わあ・・」

思わず、間抜けな声が出た。目の前に、鹿がいた。

 

鹿はじーっとこちらを見ていた。思わず息を詰めて見ていると、ふいっと興味をなくしたように葉を食べはじめた。鹿を見たのは、3回目。1度は奈良で、2度目は出町柳で。でもどっちのときも主人や友人といたから、一匹同士で向かい合うのは初めてだった。(線が細いし、目がぴかぴかしている。若い鹿なのかしら・・)そう思いながら、少し話しかけてみる。鹿は目だけこちらをむけて、食事を続けている。光のなかで、鹿が葉を飲む込む音が聞こえた気がした。

突然、鹿が横に大きく跳ねた。青い自転車がすごい速さで通り過ぎるところだった。私も一歩前に出た。鹿はトットッと進んで振り返った。このまま帰るのは何だか淋しかった。でも、もう特別な時間は終わってしまったのは分かっていた。

「写真、撮ってもいい?」

というと、少し離れたところでじーっとしている。「ありがとう」といって、写真を撮らせてもらった。ぴんぴろりん、という間抜けな音が響いて、鹿はぽーん、と山を登って行ってしまった。

f:id:rumir:20140728160000j:plain

しばらく誰もいなくなってしまった山を見上げていたけれど、ゆっくりそのまま坂を降りた。それから大きくまわって、もう一度登って(もしかして、また会えるかな)と期待しながらこの場所を通るときゆっくり自転車をひいたけれど、やっぱり、もういなかった。