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ruru on the roof

大好きな絵と絵本と、日々のこと・・

小さな緑のコ

「わあ!」

真夜中に、台所のほうで主人が小さく叫んだ。

「どうしたの・・?」

何かただならない様子だけど、寝ていた私は眠くて目がひらかない。

「カエルが、部屋に入ってきた」

「え!!」

一気に目がさめた。おそるおそる台所に近づく。

「すごく小さいよ。どうやって入ってきたんだろう。窓、開いてるのかな」

突然、視界に跳ねたものがあって息をのんだ。よく見たら、シンクのところに親指の先くらいの小さな小さな緑色のカエルが、ぴょーん、ぴょーんと跳びはねている。

「ほんとうだ」

「かわいいね。でもこれ、どうしよう」

私は寝ぼけていた。

「ざるで囲ったらどうかしら。それで、朝になったら離してあげようよ。」

寝ているあいだに、顔の上を跳ねたら嫌だ、と思ったの。そうしよう、と戸棚をあける主人をなんとなく見ながら、夢遊病のようにフラフラ、寝床にもどった。それからぐっすり、眠ってしまった。

 

コーヒーがポコポコ鳴る音で、目が覚めた。あたりに香ばしいにおいが漂う。

「カエル、逃がしたよ。コップにいれて庭に離した」

という主人の声に、そうか夢じゃなかったのか、と思いながらふらふらと起きた。「夜中に二度ほど水をかけてやったら、喜んで飛び跳ねたよ。朝もう一度水をたっぷりやって、それから外に出したんだ」と話す主人の話は何だか遠い国の話のようだった。あんなに近くで怖くない可愛いカエルを観察するチャンスだったのに、眠気にまけてチラとしか見れなかったなんて少し悔しいな、、しかし彼は何かを伝えに来たんじゃなかろうか。。そんなことを考えながら、ざるとコップを念入りに洗いました。お庭の花にお水をあげるとき、いつもより多めに、鉢の外にも少しまきました。

 

それから午後になって、用事で出掛けた。烏丸三条の交差点で、信号待ちのあいだ、(あのカエル、あんなに小さくてどうやって2階まであがって、それから部屋に入ってきたんだろう。大冒険だったろうに)とカエルのことを思い出していた。すると、耳元でピイピイ音がする。信号を渡るときじゃなくて、待つときにピイピイ言うのは珍しいな・・と信号を見たら、そこには木しかない。ピイピイ、木から聞こえてくる。

木の裏側をのぞいた。

そこには緑色の小鳥がいた。

(・・わあ!!)

ちょうど目の高さに、雀くらいの大きさの、鮮やかな緑の小鳥がピイピイないている。こんな間近に見ることがなかったので、大変驚いた。木のお腹に、麻のような布が一巻きしてあるのだけれど、小鳥の細い足がそれに絡まってしまって抜け出せないようだった。外そう、と麻に手をかける。小鳥は鳴くのをやめてジッとしている。

「ちょっと待ってね。いま外すからね」

小鳥の足があんまり細すぎて、痛そうで触るのがこわい。必死でとろうとしていると、

「どうしたんですか」

と、人が集まってきた。

「絡まってしまっているみたいで、助けようとしているんですが」

と言った瞬間、鳥の足が無事、抜けた。ピイピイ、と下手くそにちょっとだけ飛んで、手首にとまった。信じられないくらい可愛くて、思わず息をのんだ。すると小鳥はピイピイいいながら、肩にのり、はてまた頭の上で歩き回った。歓声があがり、気がつくと人だかりが出来ていた。小鳥にむけて、大勢の人がカメラをむける。手の上でとまっている小鳥は、飛ぼうとするとおちてしまった。靴の上に降りて止まった小鳥をみて、あれ、と思った。翼がかたまっているし、びっこをひいている。

「怪我したのかな。お姉さん、病院連れてったほうがいいよ」

おじさんが言う。

「この近くに、動物病院はありますか?」

と聞くと、お兄さんがスマートフォンを取り出して調べてくれた。でも、隣の駅まで行かなくちゃいけないみたい。

「でもこの子のお母さんが、木の上にいるみたいだね」

動画を撮っていた外人さんが指差していう。見上げると、ピイ、ピイ、と木の上で鳥が数羽鳴いている。きっと家族だ、とすぐ分かった。靴の上の小鳥は、あまりに軽くて不憫に感じた。どうしよう、と思ったけれど、しゃがんで、

「良かったら、ぼうしにとまって。踏まれちゃうよ」

と言った。すると、パッとラフィアのぼうしにとまって、じーっと固まっている。賢い小鳥だなあ、とびっくりして、すぐに病院につれていって、それからまた連れて帰ってこよう、そう思って「すみません、病院のある通りをもう一度教えて頂けますか」とスマートフォンのお兄さんに言った。

そのとき、

「あっ」

とカメラを構えていたお姉さんがいった。緑の小鳥はパタパタ、と羽ばたいて、木の上に帰って行った。

「良かったー」

「良かったねー!」

人はワッと口々に感想を述べて、さっと歩き出した。数人の人が残って木の上を見上げたり写真を撮ったりしている。ああ、良かった。背中や手のひらにいっぱい、汗をかいていた。小鳥は、足がしびれていたのかな。怪我でなくて、本当に良かった。私もその場から離れた。もう一度ぼうしをかぶろうとして、ふと足が止まった。

(トイレしてる・・)

小鳥は小さな小さな置き土産をしていた。思わずおかしくなって、笑ってしまった。

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