ruru on the roof

大好きな絵と絵本と、日々のこと・・

床に映る雪景色

カタン、とポストがたてる音で目が覚めた。慌ただしく足音が遠ざかる。

意識がだんだんはっきりしてくる。まだ空気は冷たく澄んで、朝の気配がする。カーディガンを羽織って、静かにお湯を沸かす。台所の窓からのぞくと、薄く溶けるような青空から朝日がさして比叡山が輝いている。

(今年も一年、どんな年になるかな)

半分寝ぼけながら、ポストに届いた年賀状を一枚ずつめくっていった。

 

元旦には毎年、友人とその奥さんと初詣にいく。昼過ぎに外に出たら、鍵をかける手が一瞬で冷たくなった。

「雪だ」

「・・ほんとうだ!」

主人の声に階段をおりながら空を見上げると、ふわ、ふわ、と小さな羽根のような雪が頬におちた。

友人たちと新年の挨拶をして、車に乗せてもらう。年越しの話やいつもの冗談を言ったりしながら、「今年はここに行こうね」と話していた神社に向かった。

 

「なんだか、雪すごいね」

いつもは坂を降りたら雪がやむのに、だんだん大粒になっていった。最初は「きれい!」とわくわくしていたけれど、みるみる吹雪になった。これはたいへんだな、と思って黙ってしまった。しかも目指した神社に着いたら大行列が出来ていて、なかなか入ることが出来そうにない。車も駐車場まで大行列だけど、人も大行列で、神社の前のバス停にずらーりと並んだ人たちが寒そうに固まっているのを見て、しかもその人たちに雪が大分積もっているのを見て、これは無理だと思った。

「もし、あれだったら・・・」

「べつに、無理に行かなくても・・・」

「・・雪、寒そうだね・・・」

「・・・やめよう。」

誰からともなく言い出して、こそこそ引き返すことにした。去年も行った神社に行こう。あそこなら大きいから、きっと大丈夫!

ところが、、道が大渋滞になっていた。しかも出掛けてまだ30分もたたないのに、あたりは一面、雪景色に変わっている。少し先は全く見えないくらい、風がびゅうびゅう吹き、そこかしこで雪が踊っている。

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「これは、すごいね。。」

その神社までの道を見るなり、長い車の行列と吹雪に無理だと分かった。その時点で本当は誰もが、帰りたいと思っていたと思う。でも、やっぱり初詣だし、お参りはしたほうがいいなと分かっていた。それにもし今帰ったら、あまりにもさい先悪い。

「そうだ、うちの一番ちかくのあのお寺にしようよ」

「やってるかな」

「きっと大丈夫だよ」

「行くだけ行ってみようか」

しかも道はいつもの帰り道なので、なんとなく安心だった。着いたら、門が空いていてほっとした。

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お寺の中には、私達しかいなかった。

音が無い世界に、雪だけがどんどん降ってくる。

「すごいね。」

「ほんとうに綺麗だね」

今日はお参りだけで、靴を脱いでお堂の中に入ると思っていなかったから、足の指先はじんじん冷たかった。だけど中に入ると立派な襖絵が迎えてくれて息をのみ、大きなやかんは湯気をたてて気持ち良く、部屋は替えたばかりの畳の青い匂いがした。磨き込まれた板間に反射する光は湖みたいに輝いて、自然と姿勢が伸びる気がした。庭からみた雪景色は、墨絵のようだった。

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「ここに来るためにきっと、行く予定だった神社に行けなかったんだね」

主人が隣でにこにこしながら言った。屋台がたくさん、おみくじや楽しいことがたくさんのいつもの初詣も好きだけど、今年はこれで良かった。

「みて。きれいだよ」

のぞくと、庭の水瓶の中に、小指の先ほどの小さな魚がたくさん泳いでいた。雪がひとひらずつその水に落ちると、中の魚もひらひらと向きを変える。水草がゆらゆらと揺れて、まるで宇宙みたいだった。

床に反射する景色を見たり、雪の縁側に座ったりしてしばらく時間を過ごした。心がだんだん静まる気がした。お寺を出た頃には、4人ともお風呂に入ったあとのような顔をして、すっきりしていた。