ふたり
お湯の中で体がゆるゆるほどけていくのを幸せに感じていたら、主人が帰ってきた。
「お帰りなさい、いまお風呂なの」
「ただいま」
「気持ちいいよ、あとで入ってね」
「うん」
自分の声がお風呂場でふわんふわん響く。ぱちゃぱちゃ、手をぐーぱーしてみたりする。帰りに友人の車で寝てしまって、体が冷えていた。いつもより熱い温度で入れたのにちょうどいい。しっぽの先まで温まるように体をまるめた。
音楽がかすかに聞こえてきて、何をかけたのかなと耳を澄ませたら、
「ジャーキー、食べたでしょ」
ガラス戸越しに、主人の声がした。
「なんで?」
言いながらドキッとしたけれど笑ってしまった。
「床に残骸がひとつ、落ちてたから、見たらラップが開いたあとがあった」
「食べてないよ」
「ほんと?」
「・・食べた。」
自分の声が反響して後ろから聞こえた。お腹すいたからちょっとだけ、というと、主人は笑って、あがったらご飯にしようねと向こうに行ってしまった。本当は、とってもお腹がすいて、帰ってすぐに小皿によそってぱくぱく食べた。でも一度に食べたら気分が悪くなったので、少し戻した。台湾で買ったビーフジャーキーだったので味が濃くて、美味しいのにもういいや、ってなったの。でもそれはないしょ。
ほかほかになって上がって、ふと気になった。
「帰ってうがい、した?」
「うん」
「してないでしょ」
「・・してない。」
どうしてうそ、つくの!と言いながらやっぱり笑ってしまった。
「お風呂、温まるよ。はいる?」
「うん」
私はゆっくり晩ご飯の用意を始めた。
お風呂場から声が聞こえる。
「ちゃんと髪ふいた?」
「・・・ふいた。」
「風邪ひくよ、ちゃんとふきなさい」
「・・はあい」
どうしてばれたんだろう。。確かに、ちょっと前から、頭が冷たいなと思っていた。夫婦って、なかなかおもしろい。
写真は、主人の実家の二匹のシェルティです。