雨の中、自転車で
空の高いところを、鳥が渡っていった。
雲の上では、雨が降っていないのかしら・・そんなことを考えながら、洗濯物を取り入れる。ちぇ、あと少しで、完全に乾くところだったのにな。。と思いながら、部屋干し用のハンガーを出してくる。袖の部分がくるりと裏返しになっていたのを戻して、つぎつぎ扉にかけていく。うーん、何かちがう。思いついて、CDを換える。少しして柔らかな音と、少し低い乾いた女の人の声が響く。そうそう、これよ。一人で満足しながら、部屋着も着替える。気分が乗ってきたので紅茶をいれて、あまりに億劫でしまっておいた手紙の束や書類を、テーブルに広げた。
そんな充実した午後だったから、もちろん出掛けたくなくなった。余計にのろのろシャワーを浴びた。ほかほかになって、よーく髪をブラッシングしたら、うまくまとまったので嬉しくなって(ぎりぎりだけど、間にあうぞ)と家を出た。
玄関の鍵をしめて、気がついた。
雨が降っている。
そうだった。だって洗濯物中に干したもの。。でも、雨なんて、こまった。。自転車で駅まで行かないと間に合わないけど、雨なら乗れないし。。
そのとき、向かいのお家の人が自転車で帰ってくるのをみた。(これくらいの雨なら、そうか、乗っていいものなのね!)帽子をかぶって、主人の自転車の鍵を持って、傘を持って階段を降りる。(私の自転車は、ちょっと前に空気が無くなって、引きずるように乗って帰ってから今も自転車置き場で眠っている。見ると胸がきゅっと痛むけれど、そのままになっている)
通り過ぎる人たちは傘をさし、足早に家路へ向かっている。ところが、最初は霧吹きでシューッと辺りにかけたくらいの雨だったのに、みるみる勢いを増してきた。辺りは段々暗くなってきて、霧の中を自転車のライトが進んで行くのを(まるで灯台が移動しているみたい)なんて呑気なことを考えていたけれど、ジーンズはベタベタになるし、だんだん嫌な気持ちになってきた。
(せっかく、今日は髪の毛がうまくまとまったのにな)
もう帽子をかぶってしまっているし、雨でとんでもないことになるのは決まっていた。
(傘、さしちゃおうかな)
今からお仕事先の人たちと会うのに、皆をびっくりさせてはいけない。やっぱり、ちょっとだけ・・・と路肩にとめて傘をさそうとしたら、少し先の自動販売機の前から、おじいさんがこちらを見ていた。どきりとした。
(まさか、傘、さす気じゃないやろうな)
と言っているようだった。思わずぺこりとお辞儀をして自転車に飛び乗り、駅へと結局びしょ濡れになりながら向かった。
大体、こうなのだ。横断歩道でも、今日ばかりは急いでいるから・・とつい赤信号で渡ろうとすると、誰かと目があって足がとまる。
このあいだも、自転車置き場に停めるときにぐるぐる回ってもどこも空いていなかった。次の電車まであとちょっとしかない、という時間だったので・・いいか!と通路の端に置いてしまった。ところが、夕方用事を終えて帰ってくると、置いた場所に自転車がない。他の人のは置いてあるのに、なぜか私のものだけ無かった。主人のなのに、困った。私は真っ青になって辺りを探しまわった。レッカーされてしまったんだ。罰金取られるかな。。くたびれたし自転車は無いし、息苦しいし悲しくなって、泣きたくなった。もう二度とこういうことはしません、神様、と思いながらあてどなく歩きまわったら、ちゃんとレールに入れられていたのを見つけた。それ以来、通路には置かないようにしている。
なんとか間に合って用事を終わらせた帰り道、雨は強まっていた。少し遅い時間だったので、辺りには誰もいなかった。もう帰ってお風呂に入るだけだからいいや!と、帽子もかぶらずびちょびちょに濡れながら帰りました。