夢のような桜散歩

 いつの間にか、三年半がたっていました。
庭の木の背丈はゆうに二階の屋根をはるか越え、30羽を超える雀のアパートになっていたので、友だちの庭師さんに思いきり剪定して頂くことにしました。
その切られた葉っぱや枝はこんもりと立派な丘のようで、すっきりとした木にはまたお日さまがいっぱい当たりはじめました。

「めんどうくさくて、無いことにしていたけど、やっぱり切って頂いて良かったねぇ」

「ねえ」

主人と見上げてにこにこしました。しばらくすると、避難していた雀の半分くらいがまた帰ってきてお喋りをはじめたので二人で笑ってしまいました。

 


 今年は格別、桜がきれい。もともとたいへん出不精なうえに、仕事や用事が重なったりで、ふたりで桜散歩をするのは7年ぶりくらい。久しぶりにたくさん歩きました。いろいろなことが一段落して、主人が元気なのが嬉しくて、ご機嫌で跳ね回りたいくらいでした。

「そうだ、うちの車が決まったんだよ」

びっくりしました。

「へえ!どんな?」

「あ、あれ。あの車」

少し離れたところを走っていく四角い車を指します。

「きみは陽射しに弱いから、あれなら助手席に乗っても直接、陽に当たらないでしょ」

「ふんふん」

「それに、幅が広いし、天井も高いからきゅうくつじゃない」

「すてき!」

「あれなら、後ろの席で靴を脱いで昼寝もできるよ」

「いいなぁ。キルトやクッションをたくさん置いて、バスケットにおやつを入れたりできる?」

「そうそう」

私は幸せな気持ちになりました。これで雨の日も風の日も、エネルギー切れでどうにも眠たくなっちゃったときや、大荷物の悲しいときも大丈夫。

「それはいいねえ」

「色は君が決めていいよ」

「でも、運転できないでしょ?」

「うん。興味ない。歩きながら考えてただけ。」

主人はにこにこ言いました。

「ずっと考えたけど、ようやく決まったよ」

 

淡いピンクが空に溶けそうに広がる下で、私はうっとり想像する。私たちの車がもしあったら、海にだっていくかもしれない。しばらく会えていない家族にも会いにいけるかも。

 

「でも、やっぱり車はじゃまだな」

「そうだよ、いらないよ」

「今はゆっくり桜も見られるしね」

「ね」

主人によれば、プロとして活動するときの自分のギターも決まってるらしい。用途別に。もちろん、色まで。楽器まったく弾けないのに。カラオケも絶対行かないのに。私には車もギターもよく判らないけれど、主人が楽しそうだと何でも嬉しいの。

 

桜があわあわと、足もとの影までちゃんと桜のかたちをしていて、ずーっと遠くまで続いていました。

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