ロバのお話を書いているの。それで、少し前のことだけど、動物園にロバに会いに行くことにしました。
動物園は、思いのほか空いていて穏やかな時間が流れていました。小さな子供や、それから年輩の方たちがトラや猿を夢中で見ていました。
動物園には独特の時間が流れてる気がします。3時を少し回ったころ。気だるいような白い日差しに、音も吸い込まれるようでした。干し草や、生き物の匂いが漂って、時おり鳴き声が聞こえます。私はどきどきしました。いまはお洋服を着て道をすんと歩いてるけど、それはそんなふりをしているだけで、自分も一ぴきの動物なんだわ、と思いました。
「ロバ、ロバ、、」
入り口で地図をもらったけれどかばんに入れてしまった。以前来たとき、このあたりにいたと思うけど、、探しながら歩きます。
ミニチュアポニーをテレビで見て、なんとも可愛らしく飼いたい、、と調べたことがありました。それから「ペリーヌ物語」を借りて見て、パリカールという名前のロバほどいい生き物はいないんじゃないかと、ロバがいいと思うようになりました。
それで飼えないかこっそり調べてたけれど、主人に「だめだよ」と言われて諦めました。
なんであんなに働きもので、なんであんなに悲しそうな目に感じるんだろう。ロバ、ロバ。どこかしら。
・・いた。
見つけて、思わず立ち止まりました。
ロバは、ただ、立ってた。
亀の池の奥、見渡しても、お客さんも飼育員さんも誰もいない。
(ロバ、、)
ロバはじっと地面をみていました。そこは他と気配が違って感じられました。
ロバは、肘と膝をつっぱってじっと立っていました。
私はじっとロバを見つめて、それからお礼を言って帰りました。
夜、主人にロバに会いに行ったことを報告しました。
「いったい、どんな風に感じるのかな。だって、ずっと、一歩も動かないんだよ。ただ立って、地面をみてた。日の影をみて、もう四時か、とか、まだ四時かって思うのかな。」
すると主人は言いました。
「ちがう。ちがう。きっと。また四時だって思うんだよ」
「・・・!!」
今日もロバ、立ってるのかな。また四時だ、って思うのかな。。原稿用紙との間に、あのロバと、その先の地面が浮かんで見えて私はなかなか書き出せませんでした。